磯俣総領事(大使)の挨拶(2021年春:令和3年4月14日)
令和3年4月14日

共通の文化的基盤をもとに、
更なる交流促進と相互理解・相互信頼の増進を!
4月と言えば、桜です。平安時代の歌人・在原業平が「世の中に絶えて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」と謳ったように、桜は日本人の季節感とって欠かせない、日本を象徴する花です。桜の鑑賞は、今や中国でも各地で盛んで、上海及びその周辺では、例えば先月中旬に、上海で留日同学会(上海市欧米同窓会留日分会)と上海日本商工クラブによる合同の桜植樹と花見の活動が行われ、また下旬には、無錫で34回目となる日中桜友誼林植樹活動に併せて国際桜観賞ウィークが開催されました。無錫での植樹は、昨年コロナ禍で中止されたことを除けば、過去30年以上にわたって日本からの植樹団も参加する形で毎年続けられてきた息の長い民間交流活動として、中国では広く知られています。
桜の花見を日中両国の人々が中国で共に楽しむのは比較的最近のことかもしれませんが、日本と中国との間には、他国と中国との間にはない深い文化的な結びつきがあります。先月末に、私は浙江省の紹興市で開催された「2021東アジア文化都市 紹興活動年」開幕式に参加して参りました。この活動は、2021年の日中韓3ヶ国の文化担当大臣の合意に基づき、毎年3ヶ国それぞれの選定された都市で年間を通じて文化芸術イベントを行うというもので、日本と韓国では今年はそれぞれ北九州市と順天市が選ばれています。紹興は、日本では「紹興酒」がよく知られていますが、日本との縁がとても深いところです。古代にこの地を治め、「大禹治水」の偉業で知られる禹王は、日本でも治水の神として祀られ、 日本には禹王廟や禹王遺跡が100ヶ所以上あります。日本で幕末の志士に大きな精神的影響を与え、明治維新の原動力となったとも言われる陽明学を生んだ明代の思想家・王陽明、また日本の中学・高校の教科書にもその文章が採用される作家・魯迅も、紹興の出身です。書聖・王羲之の作品「蘭亭序」は行書の手本として現代日本にも伝わっていますが、その蘭亭も紹興にあります。日本の高校漢文の授業で習う「臥薪嘗胆」で有名な越王勾践も、紹興のあった越の国の人です。
紹興市は今年の東アジア文化都市活動年において、大禹、王陽明、魯迅、黄酒(紹興酒)、書道を5大ブランドとして打ち出していますが、上述のとおり、これらはいずれも日本と密接な関係があり、日本人にとって非常に馴染みがあるものです。しかし、日本と中国の長きにわたる交流の歴史において、このような文化的結びつきを示す事例は他にも数多あることは言うまでもありません。人的交流や文化交流は国と国との関係の基盤を成すものであり、日中両国間に横たわるこうした共通の文化的基盤は、日中関係における歴史的な財産です。これらの歴史的な財産の価値は、時代を経ても減じることはなく、またその時々の政治や経済面での関係に影響を受けることもなく、日中両国民間の強力な文化的絆として脈々と息づいて現代に継承されています。世界全体で不透明性や複雑さが増大している現在の状況下で、日中両国が安定的な関係を維持することは一層重要になっており、そうした中で、文化面での交流は引き続き大きな役割を担っています。むしろ、現在、こうした交流を一層強化していくことがますます求められていると思います。
桜は紹興にもあります。来年2022年に日中両国は国交正常化50周年を迎えますが、かつてその国交正常化交渉を中国側でリードした当時の周恩来首相も紹興に縁の深い方で、同首相の没後に田中角栄元総理が周恩来夫人の鄧穎超女史に送った桜が紹興の府山公園に植えられて、「周恩来桜花林」と名付けられています。国交正常化後の日中関係が半世紀を迎えつつあるこの機会に、桜の季節に抱く新たな心もちで両国関係の安定的発展を願い、その目標に向けて皆さまと共に努力を続けていきたいと思います。また、そうした努力の積み重ねが、相互理解と相互信頼を増進し、日中間のさまざまな課題や懸案の解決にも資するものとなることを信じています。共通の文化的基盤をもとに、更なる交流を促進し、相互理解・相互信頼を増進し、日中関係の安定的な発展へ!
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