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上海の街の中心部を歩いていると、1日1回は「無印良品」のショップバッグを持った人を見かけます。私たち日本人にとってはとても馴染みのある「無印良品」ですが、今では中国でも大変人気が高く、上海に21店舗、中国全土では160店舗を構えるようになっています。海外全体では347店舗となり、来年には日本国内を追い越し、海外の店舗数のほうが多くなるとのことです。まさに日本を代表する「ブランド」となった無印良品。
今回、在上海日本国総領事館では、その無印良品を展開する株式会社良品計画の会長、金井政明様をご招待し、「企業理念を中心に捉えたマネジメント」をテーマにご講演をお願いいたしました。講演は、交通大学(学生向けの著名人の講演である「励志講壇」)と、当館多目的ホールで実施し、その他、多くの現地メディアの取材を受け、無印良品を通じて、日本の経営、特に日本的発想やデザインを核にした経営について、大変効果的な発信ができました。
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上海旗艦店にて解放日報のインタビューを受ける金井会長(右) |
交通大学では、講演に先立ち、同校・党委の姜斯憲書記と会談をしました。上海郊外にある4万人の学生が暮らす交通大学の大きなキャンパスを視察した後、本部棟にて会談が実施されました。姜書記は、「中国でもトップクラスの学生を教えることはとても責任が大きいと感じている。授業を充実させることはもちろん、「励志講壇」のように、世界で活躍する成功者の体験を学生に提供することは非常に重要である。今回金井会長を迎えて多くの学生に向けてメッセージを頂くことに大変感謝申し上げたい。」とご挨拶されました。また、「無印良品の地球環境保護への取り組みや経営方針などは、中国が目指す方向と一致している。講演を期待している。」と述べられました。それに対し、金井会長から、「大変優秀な学生が在籍する交通大学で講演する機会を得られて大変光栄である。是非我々のメッセージを学生の皆さんに届けたい」と抱負が述べられました。
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金井会長(左)と姜斯憲・交通大学党委書記(右) |
講演は、300名のホールで行われましたが、朝早くからのスタートにもかかわらず学生達でいっぱいの大盛況、無印良品の人気の程がうかがえました。交通大学の「励志講壇」は、これまで、張傑・交通大学校長(学長)、韓正・上海市長(当時・現上海市委書記)をはじめ、スーザン・ホックフィールド・マサチューセッツ工科大学学長、濱田純一・東京大学総長、豊田章一郎・トヨタ自動車社長など、世界的に影響力のある著名な方々が講演をしています。そして本日は金井会長、どんなお話しからするのかワクワクです。そして金井会長の登場!最初の一言は、
「日本のこんな小さな会社のお話をこのような大きな大学でさせていただきありがとうございます。」
と、とても謙虚な発言をされました。しかし、この金井会長の発言は、その後、強い意味を持ちます。それは、、、どういうことでしょう? それは後ほど、、。
金井会長は続けてこう言います。無印良品は、
「役に立つ」会社でありたい、と。
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交通大学で講演する金井会長。画面は無印良品のコンセプトを生み出したデザイナー・田中一光氏。 |
生活者の役に立つ、社会の役に立つ、地球の役に立つ、そういったことが、無印良品の目標である。特に、西洋文明のモデルで発展してきた現代の日本は、かつて誰もが持ち得た謙虚さや、素直さなどを忘れ、傲慢、理屈っぽくなってきた。無印良品は、かつて日本が持っていた価値観に沿って、丁寧に、繊細に、簡素・簡潔に、調和するような商品を作って行きたいと考えている。
普段私たちが何気なく手にする無印良品の商品の中には、こういった「理念」が込められていたのですね。
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上海淮海755(China) |
さて、金井会長のお話は12月にオープンした上海旗艦店へ。とても広いフロアに豊富な品揃え、そして何よりコンセプトを持ったディスプレイで構成されるこのような旗艦店は、今や東京はもちろん、世界の主要都市にあります。非常に成功している無印良品ですが、実はそのはじまりは「消費社会へのアンチテーゼ」でした。当初はタグに「無印良品」のロゴすら入れていなかったのです!まさにノーブランド。
そして、強い個性や嗜好性を誘う商品づくり:「これがいい」ではなく、理性的な満足感を持っていただく商品づくり:「これでいい」という考え方により、地球規模の問題を企業として考えています。地球の人口は2100年には100億人になると見込まれています。そういった状況で本当に人間は自然と共生していくことができるのでしょうか? きっと資源を奪い合うことになってしまいます。そういった社会の課題は一人一人の課題であり、実はビジネスの課題でもあります。無印良品はそのような課題解決のひとつとして、「生活が美しくなれば社会は良くなる」と考えています。
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地域と世界をつなぐ「Found MUJI」 |
この考え方に基づく無印良品の事業展開はいくつもあります。Found MUJI では、地域と世界をつなぐ、というテーマで、各地の伝統的な工芸品などの技術を活かした、その地域ならではの商品を開発しています。商品素材については、どの農家の誰が作った素材を使っているかまでたどることができます。また、生活者の目線で観察し、そこから生まれた商品も数多くあります。
さらに今後は、無印良品の「村」を作る構想があります。田んぼの上にオフィスを構え、無印良品のスタッフがオフィスで仕事をしつつ田植えもする。また、都市の顧客を招き、一緒に畑仕事をする。そういった地域密着、地域活性化を実現できる方法をも模索しています。
今では同じような観点から、古くなった団地のリノベーション、公共事業として空港のソファや通路のデザインなども手がけるようになりました。
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「MUJI サテライトオフィス」のイメージ図 |
こうした動きは、単なる企業の「社会貢献事業」ではなく、企業の活動自体が、「人間らしさの回復」になり、それを中心に放射状に様々な無印良品の新規事業が生まれていくという循環になるのです。
聴衆の皆さんは、その壮大な無印良品の物語に引き込まれています。そして金井会長から、
「無印良品はずっと明るく元気な中小企業でいたいと思っています。それは、『現場を主役に据えて大切にし、一緒に成長する』といった良品計画の経営理念を貫くためです」
という言葉がありました。冒頭「日本の小さな企業」とおっしゃったのは、今やとても大きな会社に成長した無印良品ではあるけれど、小さな会社の良いところをずっと持ち続けていたい、という金井会長の大きなメッセージでした。
最後に、
「中国の皆さんと一緒に良い『東風』をつくり、世界に送っていきましょう!」という力強い言葉と共に講演は終了しました。
満場の拍手と共に花束とプレゼントが贈呈され、記念撮影。金井会長、本当にお疲れ様でした!
この日の夜、当館広報文化センターでも、同じ内容の講演が開催されました。大変人気の高かった講演だったので、途中で椅子が足りなくなるほどの盛況でした。また、こちらの観衆は一般に応募のあった方々ですが、若い方だけでなく、幅広い年齢層の方々がいらっしゃっていました。質疑応答では、ご年配の方からも手が挙がり、無印良品の人気の層の厚さを感じました。
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当館多目的ホールにて講演をする金井会長 |
質問の中には、「無印良品は『ブランド』ではないと言っているが、既に大きな『ブランド』となっている。これは矛盾するのではないか」という疑問も投げかけられました。しかし、金井会長は、「確かに無印良品はひとつの『ブランド』となっていると考えられる。しかし、有名高級ブランドと大きく違うのは、生活者の目線に立った商品開発と商品が生み出される理念である。ブランドロゴや奇抜なデザインで絶対的価値を売るのではなく、一貫した理念を商品に落とし込み、他とは違う絶対価値を売っているのが無印良品である。従って、一般的な高級ブランドとは一線を画していると思う。」と回答されました。日本を代表する「ブランド」のひとつであると共に、「ブランド」という言葉だけでは表現できない無印良品でした。
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生活が美しくなれば社会は良くなる |
今回、この講演を通じて、無印良品という日本の企業が、強い理念を持ち続け、そういった理念を中心に経営をマネジメントし、それが成功したということを伝えられました。こういった経営を実行している会社は日本の中でも極めて希有であり、中国の皆さんにとってはとても新鮮で刺激的であったのでは、と思います。金井会長、本当にありがとうございました!
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