ウィルスや細菌の中には低温が好きなものや乾いたところが好きなものがあります。また人間の体も熱さ寒さのため体を調整します。一般に冬に多い病気といわれているのは次の病気です。
(1)カゼ
一般に「カゼ」の原因になるウィルスは200種類以上知られています。のどの痛み、鼻汁、くしゃみや咳が中心で、全身症状はあまりみられません。発熱もインフルエンザほど高くなく、重症化することはほとんどありません。
(2)インフルエンザ
現在、人に感染したことのあるインフルエンザウィルスはA型4種類、B型、C型が知られています。現在、人の世界で流行しているのはAソ連型(H1N1亜型)、A香港型(H3N2亜型)、B型ウィルスの3種類です。H、Aというのはウィルス表面にある抗原のことで、H、Aが同じであってもマイナーチェンジしたものがたくさんあります。現在、話題になっているA福建型はA香港型がマイナーチェンジしたもので、Aニワトリ型(H5N1)、(H9N2)のようにまったくの新種ではありません。今年のインフルエンザワクチンもAソ連型(H1N1亜型)、A香港型(H3N2亜型)、B型をターゲットに作られました。
空気感染で広がりますが、迅速診断が可能で、発熱後48時間以内でしたら症状を軽くできる抗ウィルス薬があります。突然の高熱・悪寒などの症状があったら医療機関でインフルエンザの迅速診断をしてもらいましょう。死亡率は昨年日本で約0.1%(死亡者約1,100人、但し大多数が65歳以上の高齢者)です。幼児は急性脳症に気をつけなければなりません。吐き気、意識がはっきりしない、けいれんをおこすなどの症状があったらすぐに医療機関を受診してください。また、お医者さんから与えられた熱さまし以外は使わない方が無難です。
今年、インフルエンザのワクチン接種がWHOなどで推奨されたのは、インフルエンザとSARSの初発症状が、突然の高熱、筋肉痛、前身倦怠感など極めてよく似ており、万が一再びSARSの発生があった場合に、急に発熱する疾患はすべてSARSに感染しているのではないかと疑われる原因になるからです。
(3)ロタウィルス感染症
冬に多く、生後1年前後の赤ちゃんがよくかかる急性下痢症です。症状はカゼの症状の他に、米のとぎ汁のような白い下痢便が何度も出ます。嘔吐は1~2日で治りますが、下痢は数日続きます。
ロタウィルスが原因で唾や大便から感染します。便の検査で迅速診断が可能です。脱水を防ぐためイオン飲料を薄めたものを飲ませてあげてください。嘔吐がおさまらなかったり、尿が濃くなったり、ぐったりしていたら点滴が必要ですので、すぐに医療機関で受診してください。
(4)溶連菌感染症
冬から春に多く、幼児や小学生がよくかかりますが、赤ちゃんには少ない病気です。症状は突然39℃前後の高熱を出しのどの痛み、頭痛を訴えます。こまかい鮮紅色の発疹が全身に出ます。舌はいちごのように赤いブツブツができます。熱は数日で下がり発疹も消えます。
溶連菌という細菌が原因で飛沫感染します。迅速診断が可能です。合併症として急性腎炎をおこすことがありますので、尿の検査と治っても抗生物質を2週間続けることが大切です。学校へは熱が下がり発疹がなくなったら登校できます。
2.SARSについて
昨年から今年の夏までに総計8,098人が感染し、774人が死亡しました。振り返ってみると死亡率は9.6%でした。今冬にSARSが再流行するかもしれないと言われるのは、(a)今までのコロナウィルスはインフルエンザウィルスと同じく冬季に流行することが知られている、(b)前回の世界的な集団発生が冬季に始まっている、(c)SARSウィルスが低温に強いことが実験で示されていることなどからです。 但し、今年の7・8月にオーストラリアなどの南半球での流行が起こらなかったことから季節性はないのではないかと考えている専門家もいます。流行が治まってからも絶えず研究が続けられており、これまでにわかったことをまとめてお伝えします。また、万が一再びSARSの発生があった場合の注意点についてもお伝えします。
(1)感染経路
飛沫感染98%、下水道の排水管等を介した環境感染2%。空気感染についてはほとんど否定的です。
(2)潜伏期間
10日間程度の潜伏期があり、その間感染症状はほとんどありません。潜伏期間中は他の人に感染させることはありません。
(3)ウィルスの起源
ハクビシンを含めてどの動物が宿主なのかわかっていません。
(4)流行のパターン
香港のように一度ピークがありその後終焉します。トロントでは診断基準を独自に甘くしたので、感染者を見逃し、再流行しました。シンガポールでは感染者が重篤な糖尿病で発熱がなかったため、認定が遅くなり、その間に感染が広がりました。
(5)ウィルスの毒性
香港においては2次感染者に比べ、4次、5次感染者の予後が良い傾向にあります。ヒトからヒトへと感染を繰り返していくとウィルスの毒性が弱まっていく傾向があるようです。
(6)正確な診断キット
中国製の診断キットの正診率80%とのことです。日本では数時間で診断可能なキットが認可申請中ですが、現在SARSの患者が世界中に一人もいないため、ヒトでの臨床実験はできない現状です。
(7)日本の検疫法が変わりました。
SARSに感染したおそれのある者に対して、入国後の居所、連絡先、氏名および旅程等の報告を求めるとともに、旅券の提示を求め、入国後10日間、検温等健康状態の提示を求め、質問を行うことが出来るようになりました(罰則あり)。なおSARSに感染したおそれのある者とは、(a)SARSの疑いのある患者を治療している医療機関で働いたことがある、(b)同居の家族等でSARSの疑いで入院した人がいる、(c)SARSの疑いで入院した患者に見舞いをするなどして接触した人です。
(8)有効な消毒法
国立感染症研究所の実験によると、界面活性剤が含まれる合成洗剤(市販の台所用合成洗剤)をぬるま湯で200倍に薄め、その中に、2分間つけるとウィルスが感染力を失うことが確かめられました。
(9)SARSの発生があった場合
(a)疑わしい症状があった場合には、早急に最寄りの医療機関で受診することをお勧めします。先ずは、掛かり付けの病院やクリニック等で受診して下さい。もしも今春のように上海で検疫体制が強化され、病院やクリニック等で発熱患者の診察ができなくなった場合は、利用できる医療機関を早急に調査しホームページ上でお知らせします。
(b)最寄りの医療機関でSARS感染の疑いがあると診断された場合には、上海市衛生局の現在までの方針では、今春と同様、外国人は主に肺科医院(政民路507、復旦大学の北側)に搬送されることになります。英語を話す医師はいますが、日本語を話す医師・看護師はいません。今春の場合、入院時のデポジットとして20,000人民元が、また1日当たりの入院費として検査の内容により差がありますが1,000~2,000人民元が必要です。ただしデポジットが払えなくても入院を拒否されることはありません。疑わしい症状にて医療機関で受診される際には、携帯電話およびバッテリーを携行し、すぐに総領事館に連絡頂くよう協力方お願い致します。
(c) 子供は上海児童医学中心(5873-2020)及び児科医院(6403-7371)が重点病院として指定されると思われます。子供の場合、保護者の付添や通訳が必要になりますので、直ぐに総領事館までご連絡ください。
(d)留学生や教師の方で、学校ごと隔離されたり、入校を拒否されたりした場合等も総領事館までご連絡下さい。
(e)総領事館電話番号 6278-0788
注意:SARSに関する情報は、WHO西太平洋地域事務局長 尾身茂氏の10月27日の東京での講演会、厚生労働省の「インフルエンザ総合対策ホームページ」および当館、香港総領事館による情報収集を基に作成しました。SARSに関しては、あくまで今春流行したウィルスについてであり、突然変異により全く違う性質を持つこともありますので、予めご承知ください。体力維持に心懸け、この冬を健康で過ごされるよう御自愛下さい。