平成30年度天皇陛下誕生日祝賀レセプション 片山和之総領事挨拶

平成30年12月5日
 

 陳群上海市副市長,来賓の皆様,友人の皆様,こんばんは。御多忙の中,平成30(2018)年度の「天皇陛下誕生日祝賀レセプション」に出席頂き誠にありがとうございます。
 
 私は,平成4(1992)年10月の天皇皇后両陛下御訪中に同行する幸運に恵まれました。両陛下は,同月27~28日に最後の訪問地上海にお立ち寄りになられました。その際,この花園飯店32階の「ドラゴン・ルーム」(Dragon Room)で在留邦人代表を御引見されたのをつい昨日のように思い起こします。また,この「グランド・ボール・ルーム」(Grand Ball Room)は,北京留学中に私が初めて上海を訪れた1984 年12月に「錦江倶楽部」と呼ばれていたこの場所でクリスマス・パーティーに参加した思い出深い場所でもあります。
 
 早いもので,今回,私が上海で主催する4回目の天皇陛下誕生日祝賀レセプションとなりました。前回の挨拶の中で,「これが私にとり上海での最後の天皇陛下誕生日祝賀レセプションとなるかどうかは神のみぞ知る」と申し上げたことを覚えています。神様の粋な計らいで本年もこの舞台に立つことができましたことを,とても嬉しく存じます。しかも,明年4月30日に退位される今上陛下の最後となる天皇陛下誕生日祝賀レセプションを上海総領事として主催できますことは,この上もない光栄です。
 
 他方で,私自身も遂に近く離任することとなりました。したがって,本日は,上海総領事としての最後の天皇陛下誕生日祝賀レセプションであると同時に,自分自身の離任レセプションともなりました。二重の意味で感慨深いものがあります。
 
 天皇陛下は,第125代で1989年に即位,12月23日に85歳をお迎えになられます。天皇陛下の御退位に伴う御代替わりは,200年振りです。明年5月1日に皇位を継承される皇太子殿下の誕生日は,2月23日です。したがいまして,今後の天皇陛下誕生日祝賀レセプションの時期は年末から年始に変わります。
 
 平成時代の30年間は,私にとり外交官人生の30年間でもありました。この間,国際関係には構造変化が起こり,中国は改革開放政策の中で目覚ましい経済発展を遂げ,国際的な影響力を増しました。それに伴い,日中関係も大きく変化しました。両国にとり困難や試練の時期もありましたが,振り返ってみると,近代以降の明治,大正,昭和,そして平成時代の150年の間で,日中関係が最も平和と安定を保っていたのが平成の時代であったと言うことも可能だと思います。
 
 本年は日中平和友好条約締結40周年,また,中国の改革開放政策開始40周年という節目の年でした。まさに,日中関係も「不惑」の年を迎えた訳です。5月には李克強総理,10月には安倍総理の相互公式訪問が実現しました。また,先般,当地で国際輸入博覧会が催され,日本からは468の企業・団体が参加し,展示スペースは約2万平方米と国別で最多・最大でありました。そして,明年には,習近平国家主席の訪日が大いに期待されるところであります。このように,両国首脳の相互往来をはじめ両国各層の努力により,二国間関係が正常な発展の軌道に戻り,新たな段階の協力を拡大強化しつつある姿を離任直前に見ることができたのは上海総領事としてこの上ない幸運でした。
 
 本日は1年を締めくくる重要な行事であり,かつ,私の上海勤務の総括をすべき日でもありますので,この機会を利用して皆様方に総領事館の活動の一端を少し報告させていただきます。赴任後の3年3ヶ月の間,在留邦人との関係では,(1)生活上の安全,(2)企業支援,(3)子弟の教育環境改善,及び(4)各種領事サービスの提供のために,また,中国人との関係では,特に若者層の日本理解を促進し対日認識改善のために努力し,「敷居の低い,役に立ち,頼りになる総領事館」を目指して参りました。
 
 この間,物理的時間と体力の許す限り幅広い各界各層の方達との交流促進に最大限取り組みました。そして,華東地域における日本の「広告塔」とも言うべき上海総領事として,日本の存在感を高く示すために,目立つ服装や髪型を意識的に心がけました。また,在留邦人と中国人,その他外国人とのネットワーキングのハブ機能として総領事館事務所や公邸を最大限活用しました。更に,日本からの来訪者に対して,中国で起きている変化の速度と規模を正しく認識してもらうために簡潔で印象的なブリーフィングに努めました。
 
 数字で振り返ると,この間,公邸会食(レセプションを含む)735件,地方出張90件,日系企業支援2,423件,日系企業・商工クラブ関係者との意見交換660件,企業行事出席120件,大学訪問71件,日本人学校・補習校関連行事出席38件,講演38 件,各種行事での挨拶396件,メディア・インタビュー52件,上海日本メディアとの記者懇談会39回,ビザ発給件数は昨年約185 万件,本年も現時点で既に204万件を越えております。上海総領事館管轄地域の重要性は言うまでもありません。この3年3ヶ月は,習近平主席が述べたごとく,正に「開放は上海にあり,上海の開放は中国の重要性にある」ことを痛感した日々でありました。長江デルタの一体化発展は最近中国の国家戦略となりました。
 
 総領事館管轄地域の総人口は2億6千7百万人であり,米国に次ぎ世界4番目です。また,経済規模はフランスや英国を凌駕しドイツに次ぎ世界5 番目です。この地域には日本の対中投資額の81%(2016),対中貿易額の44%(2016),中国在留邦人数の46%(2017),中国に拠点を置く日系企業数の69%(2017),全世界の日本の在外公館で発給したビザ件数の約3分の1(2017)が集中する日中交流の最前線です。
 
 上海で日中親善の「井戸を掘られた」多くの方々にお会いしました。彼らの長年の貢献に対して,赴任後,これまでに叙勲5名,外務大臣表彰4名(公邸料理人を含む),総領事表彰30名(団体を含む)の授与決定をさせて頂きました。改めて関係者に祝意をお伝えします。本日も,この後,オークラガーデンホテル(上海)様の日中交流に対する長年の貢献に対して総領事表彰を行う予定です。
 
 本日は,日系企業・自治体,公的団体の協力を得て商品や食品の展示・試食,観光等のPR を行います。また,日本料理や日本のお酒,日本の伝統文化であるお花,お茶,伝統楽器演奏,更に,この後,サプライズのポップカルチャーの出し物も楽しんで頂ければと存じます。ちなみに,私の任期中,総領事館広報文化センター及び公邸で行った日本文化紹介・観光促進事業は計135 回に及びます。
 
 17世紀の英国人外交官ヘンリー・ウォートン(Henry Wotton)は,かつて「外交官は自国の利益を代表して,嘘をつき策略を巡らすために海外に派遣される正直な人間である。」と評しました。彼の言に従えば,これ以上いると,上海の居心地の良さと人々の暖かい心に触れて,心情的に複雑な気持ちになりかねない可能性があるので,日本の国益を代表すべき日本人外交官としてはそろそろ上海を去るべき潮時なのかも知れません。それほどまでに上海での3年3ヶ月は,35年の外務省生活の中で一生忘れることのできない素晴らしい思い出として私の脳裏深くに刻まれました。このように実り多く豊かな経験を上海でできたのも,皆様方お一人お一人が私個人に対して,そして,日中関係発展に対して注いで頂いた熱い思いの御陰であり,この場をお借りして改めて深甚なる感謝の意を表します。
 
 私は,間もなく当地を離任し外務省に戻りますが,今後,上海総領事という肩書がなくなっても,また,どこに身を置いていようとも,妻共々,友人として皆様方と末永くおつきあいを頂ければと切望しております。
 
 それでは,皆さん,本日の天皇陛下誕生日祝賀レセプションを心ゆくまでお楽しみ下さい。
 
 ありがとうございます。
 
平成30年11月30日
在上海日本国総領事
片山和之